umindalen

本と映画,カイエ.umindalen@gmail.com

黒田夏子『abさんご』

わたしがなにかを書こうとするのをためらうのは,自分の日本語が不自由であることを認めたくないからであり,思い描いている(ように思える)ことの十分の一も扱いきれないことに気づきたくないからであり,文面の紡がれるそばから内心で「嘘だ」と突っ込み…

フェルナンド・ペソア『不穏の書・断章』

誰かが本の話を始めるとき,そこはもはや現実の場ではない.舞台の上といってもいいだろう.どんな荒唐無稽なことがらがあけすけに語られてもいいのだ.だが,内容を噛んで含めるように説明してしまってはたぶんに現実の側に肩入れしているようでいまいちお…

熊野純彦『メルロ=ポンティ 哲学者は詩人でありうるか?』

メルロ=ポンティ―哲学者は詩人でありうるか? (シリーズ・哲学のエッセンス) 作者: 熊野純彦 出版社/メーカー: 日本放送出版協会 発売日: 2005/09 メディア: 単行本 購入: 2人 クリック: 6回 この商品を含むブログ (35件) を見る 内容紹介: 哲学者は、客観世…

道化を演ること,サルトル『嘔吐』再読

部屋を出て,約束通りに喫茶店へ向かった.タクシーに向かって右手を挙げ,煙草に火を点け歩いた.それからタクシーなど見てはいなかったが,それはまるで普通に客を乗せるように,私の前に停車してドアを開けた.少し面食らったが,自分が手を挙げたのだか…

ゼーバルト『鄙の宿』(と,『土星の環』)

鄙の宿 (ゼーバルト・コレクション) 作者: W.G.ゼーバルト,鈴木仁子 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 2014/03/25 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る 内容紹介: ジャン=ジャック・ルソー、ローベルト・ヴァルザーなど、ゼーバルトが偏愛…

川上未映子『ウィステリアと三人の女たち』

ウィステリアと三人の女たち 作者: 川上未映子 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2018/03/30 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (2件) を見る それを読むことそのものが愉悦であるようなひとつづきの文章というのがある.そういう言葉の連なりに運よく…

『長谷川龍生詩集』現代詩文庫

長谷川竜生詩集 (現代詩文庫 第 1期18) 作者: 長谷川龍生 出版社/メーカー: 思潮社 発売日: 1969/01 メディア: 単行本 クリック: 6回 この商品を含むブログ (4件) を見る 先日,Twitter 上でかの有名な(?)@fumiya_iwakura 氏が,長谷川龍生と関根弘のある…

吉本隆明『エリアンの手記と詩』

軒場の燕の掛巣などを 珍らしげに確かめていたおまえの影よ! おまえは何かを忘れてきたように 視えたものだ! 抱えこむような手振りで けれど何も持つてはいなかつた あずけるような瞳で けれど何も視てはいなかつた それから 亀甲模様の敷石によろめいたり…

金井美恵子『愛の生活・森のメリュジーヌ』

愛の生活・森のメリュジーヌ (講談社文芸文庫) 作者: 金井美恵子,芳川泰久 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 1997/08/08 メディア: 文庫 購入: 4人 クリック: 13回 この商品を含むブログ (46件) を見る 内容紹介: 《わたしはFをどのように愛しているのか?》…

赤坂憲雄『性食考』

二月のなかばに京都へ旅行をしてきた.以前にも幾度か訪うているから,どこを見て回ろうか思案していたのだが,すぐ頭に浮かんだスポットとして,あの『檸檬』の丸善がある(ところでわたしは京都の地理にうとく,一番の繁華街といえばあの四条河原町のあた…

古井由吉『槿』

槿 (講談社文芸文庫) 作者: 古井由吉,松浦寿輝 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2003/05/10 メディア: 文庫 購入: 1人 クリック: 26回 この商品を含むブログ (33件) を見る 古井由吉という名前を初めて聞いたのは(恥ずかしながら最近のことで),数か月前…