『長谷川龍生詩集』現代詩文庫
先日,Twitter 上でかの有名な(?)@fumiya_iwakura 氏が,長谷川龍生と関根弘のある対談の一部を抜粋して投稿していたのが,思わず手を叩いて笑いたくなるくらいおもしろかったので,さっそくそれが収録されている現代詩文庫の『長谷川龍生詩集』を手に入れて読んでみた.わたしの気に入った箇所をここにも引用してみたい.詩集なのに詩を引かないけれども,悪しからず.件の対談より.
関根 じゃ,まあね,詩をなぜ書くかと言われたら,ひとことでなんと答えますか?
長谷川 そうね,復讐かな.
関根 何に対する復讐?
長谷川 自分自身以外のもの…….
関根 ひとの評判を気にしますか.
長谷川 非常に気にするときと,ポカーッと抜けたときと,時期によってちがいますね.しかしほとんど評判されたことがないから.孤立無援だからね.昔から.だから,まあいいんじゃない?……孤立無援だよね.
関根 遊ぶことは好き?
長谷川 あんまり好きじゃない.
関根 仕事は好きなの?
長谷川 仕事も好きじゃない.
関根 一番なにが好きなの?
長谷川 ……
関根 どういう状態が一番,自分にとってはいい状態なの?
長谷川 やっぱり自閉症だからね.みずから閉じるという…….一つのことに熱中するということですね.それが自分の気に入ったことであるという…….
関根 じゃ,日本の家屋なんていうのはあんまり好きじゃない?
長谷川 ……
関根 ホテルは好き?
長谷川 ホテルあんまり好きじゃない.日本の家屋も好きじゃないですね.
関根 密室?
長谷川 密室ですね,そう,密室ですね.
関根 密室,好きでしょう.
長谷川 非常に古くさいような,暗いとこね.
関根 密室でお酒飲むなんてことないの?
長谷川 ありますね.そりゃありますね.
関根 そうしてこう,幻想をたのしむという…….
長谷川 うん,たのしむっていうの,あるね.
関根 しょっちゅう?
長谷川 しょっちゅうね.毎晩ねる前には幻想をたのしむってことあるね.だから,ちょっと病気になって,二,三日会社休んで,ゆっくり幻想にひたれるっていうのはこれはまあ,まったくすばらしいことだなあ.
関根 (略)……それから,ちょいちょい自殺したがってるねえ.
長谷川 うん.
関根 いまでも自殺したいですか.
長谷川 そうねえ,やっぱり,自殺したいような気持になることがあるね.
関根 どうしてえ?
長谷川 エッ?
関根 どういうときに?
長谷川 そりゃあやっぱり,才能もないし,それから,生きる力もないし,誰からも愛されないし,自分自身で一人で生きていこうという強固な精神も,やっぱり,疲労してくると衰弱するしね.だから,思い残すことがなにもない時があるわけですよ.そういう時はやっぱり,飛躍しそうな時がありますね.たいへんもう,いまになって自殺にあこがれをもつなんて,古くて,古めかしくて,はずかしいようだけれども,ピュウーッとなにか,入ってくるときがあるね.
関根 人を殺したくなることはありますか.
長谷川 ありますねえ,それはもうしょっちゅうありますねえ.
関根 特に憎いのは?
長谷川 特に憎いのはねえ,いるねえやっぱりたくさん…….文学のわからない奴は全部殺してやりたいねえ(笑).
関根 じゃまあ……会社で働いてんのは,あんまり好きじゃないわけ?
長谷川 好きじゃないね.
自伝「自閉症異聞」より.
私は,小さい時から,そのような環境の中で,自らと世の中との通路を閉ぢた.明らかに自閉症として,詩人の道をえらんだ.しかし,自閉症としては生きていくことはできない.私はそこで亡霊を創造した.現在,街をあるいたり,会社に勤めたり,他人と会話したりしているのは,私の亡霊である.亡霊だけが,自閉症の壁を,何んの制約もなくすり抜けていくことができ,社会への唯一の交流媒体として働いている.
私の深き欲望とは,自閉症にかかっている真の私の存在と,社会に仮の姿として行動している私という亡霊の存在を逆転することにある.
人間,最期に,勝てばいいのだ.暗い,狂った,呪われた,被害妄想の人生の最後の時間には,颯爽たる加害者でありたいと思う.